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プロトピック軟膏における外用方法の工夫



少々前になりますが、8月4日(日)は「発売20周年・プロトピックセミナー」に参加するため大阪まで行ってきました。プロトピック軟膏は発売当初から使っていて、私自身も愛着を持っている薬なので、20周年を迎えたというのは大変感慨深いものがあります。

大阪プロトピックセミナー2019

プロトピック軟膏は「ステロイド外用薬しかなかったアトピー性皮膚炎治療」にブレイクスルーを起こした画期的な薬剤です。免疫抑制剤(タクロリムス)が主成分の軟膏ですが、ステロイド外用薬のクラスでいうと「ストロング〜マイルド」程度の抗炎症作用を有しつつも長期的な外用で大きな副作用を生じないというのが特徴です。

このように優れた性質を持つプロトピック軟膏ですが、唯一の難点が「刺激感」です。外用後に患者様が痒み、ヒリヒリ、チクチク、ほてり感、灼熱感などを感じてしまう場合があり、この副作用がプロトピック軟膏を使いにくいものにしている最大の原因とも言えます。

発売から20年経っている現在でも、プロトピック軟膏の刺激感という副作用を完全に克服できているわけではありませんが、現在ではその原因と対策について概ね確立されていると言えます。

【原因1】
皮膚炎を生じてバリア機能が低下している皮膚に塗ると、プロトピック軟膏の主成分であるタクロリムスが大量に皮膚内に吸収されてしまい刺激感の原因となる。

【対策1】
2ステップを前提としてプロトピック軟膏を活用する。具体的には適切な強さのステロイド外用薬で予め炎症を落ち着かせ、バリア機能を復活させる。次のステップとしてプロトピック軟膏の外用を開始する。タクロリムスは分子量が大きく、バリア機能が整っている皮膚に外用した際には皮膚内への吸収が抑制されることにより、刺激感の減少に繋がる。またステロイド外用薬によって一見正常皮膚に戻ったように見える部位においても、保湿剤を外用しバリア機能を補助した後にプロトピック軟膏を使用することによって、不必要な刺激感を更に回避することができる。

【原因2】
皮膚の知覚神経終末にはTRPV1(Transient Receptor Potential Vanilloid 1)という受容体がある。トウガラシ成分であるカプサイシンが皮膚内に吸収されると、TRPV1と結合し刺激感を誘発してしまうことが知られている。プロトピック軟膏の主成分であるタクロリムスもカプサイシンと同様の作用があるため、TRPV1と結合し刺激感を誘発してしまう。

【対策2】
TRPV1関連の刺激感を最小限に抑えるためには、上記「対策1」が有効。その上で、使用前に「プロトピック軟膏を外用すると刺激感が出る可能性があるが、約1週間で落ち着く。プロトピック軟膏以外にはステロイド外用薬に代わる薬剤がないため、何とかこの1週間を乗り越えてほしい」ということを患者様にしっかり説明し、理解してもらう。

私自身はこれまでこのように工夫してプロトピック軟膏を患者様に使っていただいておりましたが、今回のセミナーで新たな導入方法について、本日講演された「平野皮膚科医院 院長 平野眞也先生」がお話されていました。

その導入方法は「アトピー性皮膚炎を生じている部位にプロトピック軟膏を直接外用するのではなく、病変部位を囲うように、病変部位周辺に丸く塗る」というものです。もちろんこの方法は導入初期の刺激感を回避する方法なので、皮膚炎が落ち着いたらその部分にも直接塗ります。平野先生は「プロトピック軟膏を周囲に塗る」の他に、「病変部位はステロイド外用剤を使用し、プロトピック軟膏を周囲に塗る」という併用療法を行う場合もあるとのことでした。

プロトピック軟膏をアトピー性皮膚炎の病変部位に直接塗らないというのは、もちろん刺激感の回避を目的としています。プロトピック軟膏を病変部位の周囲だけに塗ってなぜ効くのかを考えてみましたが、恐らく病変周囲に吸収されたタクロリムスが、イヤな刺激感を感じさせない程度に病変部位にもマイルドに作用し、病変部位のサイズが徐々に縮小していくのだと思われます。その結果、最初は周囲から塗り始めたはずなのに、徐々に病変だった部位にも外用できるようになり、最終的には全面にプロトピック軟膏を外用できるようになるのでしょう!

新たな導入方法を「対策3」として、当院でも行ってみたいと思います。



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