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5.132019
デュピクセント治療まとめ③ (9ヶ月間・29名)【患者コメント】
今回はデュピクセント治療をしていく中で、患者様から頂いた数々のコメントを紹介させていただきます。本薬剤はアトピー性皮膚炎(以下、AD)を治療する薬です。
前々回ご紹介したように、本治療は継続率100%ですので、当然ですが好意的なコメントが大多数です。しかしながらデュピクセントは「魔法の薬」ではなく、科学的根拠に基づいた「作用機序・効果・限界点」があります。まずはその点について述べさせていただきます。
デュピクセントの作用機序や効果を正しく、かつ分かりやすく説明しても「ADでは皮膚の2型炎症反応(Th2細胞による炎症)が起きており、その中で重要な役割を担っているのが細胞間の情報伝達物質(サイトカイン:IL-4、13など)です。これらの働きにより2型炎症反応が進み、ADの諸症状が発症、悪化していきます。サイトカインの機能は情報を受け取る側(各種細胞)にある受容体という部分に結合することによって発揮されます。デュピクセントはIL-4、13の受容体に結合する抗体を含んだ薬剤であり、投与することによって抗体が受容体の機能を阻害し、IL-4、13による情報伝達をブロックします。その結果、皮膚の2型炎症反応が起こりにくくなり、ADの諸症状の改善が期待できます」となってしまいます。
初回の説明時にはこれと同様の話をするのですが、より単純で分かりやすい表現が必要なので、私は「デュピクセントは注射を打っている期間だけADが起こりにくい体になる薬です。効果が切れたら、ADも元に戻ります。根本から体質を変えるとか、ADが二度と出ないようにする薬ではありません」と説明しています。加えて「デュピクセントの力を借りなくてもADのコントロールができるようになることが最終的な目標です」とも言っています。
それではコメントをご紹介しましょう!
【コメント:複数名】
・痒みの激減
・睡眠不足の解消
痒みの減少はほぼ全ての患者様から伺うことができます。しかも笑顔で! 医師側から客観的に判断できるのは皮膚の赤み(紅斑)、硬化(苔癬化)、ガサつき(鱗屑)、搔き壊し(掻破痕)なので、ついそれらの変化具合を指標としてしまいがちですが、患者様にとってもっとも重要なのは痒みが減ることです。それに伴い夜間に痒みで目が覚めてしまうことも減り、睡眠不足が解消されたというコメントはよく伺います。
治験段階では「デュピクセント治療を標準的プロトコールに則って4ヶ月間(16週間)行なった場合、ADの重症度は約80%減少、痒みは約60%減少」というデータでした。しかし実際に診療を行なっていると、痒みの減少率はもっと良い成績なのではないかと思われます。
私は患者様に痒みの程度を伺う際に「10段階評価」を行っていただいてます。「治療前、痒みが最もひどかった時を10としたら、現在はどのくらいですか?」と言った具合です。カルテにも「10→5」とか、「10→2」のように記載しています。
今回29名のカルテを見直してみたところ、ほとんどの患者様で投与開始1ヶ月経過した時点で「10→5」、3ヶ月経過した時点で「10→2以下」となっていました。投与開始1ヶ月経過した時点で「10→0」と非常に反応がいい方も複数いらっしゃいました。
このような経験より、私は治療前の説明時に「治験データでは痒みの減少率は約60%となっていますが、経験上80%くらいは減少すると思いますよ」と言っています。
当然のことですが、痒みが減少し掻かなくなれば、ADによる皮膚の赤み、ガサつき、硬化性変化も改善していきます。
【コメント:Aさん】
・新しい人生が開けそうです。
・怖いくらいに効いています。20年前にこの薬ができていれば、私の人生は変わっていたと思います。
Aさんのコメントは以前も過去記事にて紹介させていただきました。私にとって最も印象深い患者様です。
■過去記事 デュピクセント注射後の経過、適用外だった方々の経過
Aさんは4ヶ月間の標準的プロトコール(2週間に1回注射)を終えられ、現在は「1ヶ月間に1回注射」へ順調に減量できています。
【コメント:Bさん】
・人間らしい肌の柔らかさに戻りました
Bさんはデュピクセントの治験に参加されていた方です。2017年12月まで治験にてデュピクセント注射を受けていて良好な状態を保っていたものの、終了後4ヶ月間経過した時点でADが一気に悪化し、2018年7月に当院にいらっしゃいました。
初診時はかなり皮膚の状態が悪くなっており、炎症や搔き壊しにより皮膚が硬くなっていました。デュピクセント治療を継続するにつれてADが改善し、ご自身が皮膚を触った際の感触について大きな変化を実感されたようでした。
Bさんのこれまでの経過(治験終了→AD再燃→悪化)から「デュピクセントの終了後も3ヶ月程度は良好な状態が保てるのではないか」と推察していましたが、デュピクセントの減量を開始した多くの患者様を診察していくにつれて、「どうやらそうでもないようだ」と思うようになってきました。減量した方々のコメントとしては、「前回治療から1ヶ月間は問題ないが、それ以上経過すると痒くなってくる」とか、「前回治療から3週間が過ぎると不安定になってくる」といった具合です。
当院では「1ヶ月間に1回注射」で安定している方は多くいらっしゃいますが、「1.5ヶ月間に1回注射」や「2ヶ月間に1回注射」で安定しているといった患者様はまだいらっしゃいません。
デュピクセント(一般名デュピルマブ)の添付文書を見ると、本薬剤1筒(300mg)を単回投与(皮下注射)した場合のデータが載っており、それによると最高血清中デュピルマブ濃度に達するのが「7.0日」、半減期は「5.1日」、投与28日目には「最高血清中濃度の約1/4に減少」、投与42日目には「血清中濃度はほぼゼロ」です。
一般的に薬物の血中濃度は繰り返しの投与によってある一定のレベルにまで上昇します。デュピクセントの反復投与データを見ると、「1筒(300mg)皮下注射を隔週投与とし、12週間経過時点での血清中デュピルマブ濃度」は「単回投与における最高血清中デュピルマブ濃度」に比べ2倍弱という数値となっています。
「どの程度の血清中デュピルマブ濃度が保てれば重症ADをコントロールできるのか」に関しては、恐らくかなりの個人差があると思われるため一概には言えませんが、私自身は「最低でも2ヶ月間に1回(1筒:300mg)」の投与は必要ではないかと考えています。
【コメント:Cさん】
・デュピクセントを一生続けられたらいいのに・・・
Cさんはデュピクセント投与開始してから約1ヶ月半で痒みが「10→3」となりました。その状態を非常に高くご評価いただき、このようなコメントをいただきました。
長期間における反復投与後の副作用や効果の減弱など不明な点はありますが、安全性を確保し、ご希望の患者様には長くお使いいただけるような薬剤に育ってほしいという願いを私自身も持っています。
【コメント:Dさん】
・処置用手袋を長時間つけていても痒みが出なくなりました。
デュピクセント治療を受けていただいている29名の患者様の中に、医師も2名いらっしゃいます。Dさんはそのうちのお一人で、大きな病院の循環器内科に勤務されています。全身のAD悪化に伴い来院されました。お仕事上、心臓カテーテル検査・治療を行う頻度が高く、処置用手袋を着用している時間もかなり長いそうです。
このままADのコントロールをしっかり続け、循環器内科医として大勢の命を救っていただきたいです。
【コメント:Eさん】
・スポーツを楽しめるようになりました
Eさんは受診のたびに「症状の改善具合」と「QOL(quality of life:生活の質)の向上」をきちんと報告していただける方です。医師側から見てもADの諸症状はほぼ消退していますし、患者様ご自身も治療前とは比較にならないほどの症状改善を自覚されています。
Eさんがお困りだったのが「汗の影響」でした。汗をかくと「痒み」や「しみる感覚」を強烈に感じてしまうという具合です。そのため日常生活でも困っていましたので、スポーツなどとてもできる状態ではありませんでした。デュピクセント治療によってADの諸症状が改善するのに伴い「発汗に伴う痒み・しみる感覚」がなくなり、スポーツができるようになったとご報告いただいた時には、デュピクセントによるQOL改善効果を本当に実感しました。スポーツできるようになり、ダイエット効果も出ているそうです♪
Eさんは治療開始が2018年8月と早く、すでに4ヶ月間の標準的プロトコール(2週間に1回注射)を終えられています。現在は「1ヶ月間に1回注射」へ減量していますが病状は安定しています。
【コメント:番外編】
・副腎皮質ステロイド剤の内服を止めることができました。
副腎皮質ステロイド剤を内服した状態で来院された方が2名いらっしゃいました。お二人ともデュピクセント治療を開始後、副腎皮質ステロイド剤の内服を中止することができました。
1名は頓服だったこともあり、使用状況をお聞きした上で「デュピクセント治療の開始とともに内服中止が可能」と判断し、問題なく離脱できました。もう1名は10ヶ月間に渡り副腎皮質ステロイド剤の内服を続けていました。副腎皮質ステロイド剤の内服を3ヶ月以上継続する場合は「ステロイド性骨粗鬆症対策」をする必要があるのですが、それに関する説明や対策もされていませんでした。早急に骨の状態を精査する必要があると考え近隣の整形外科に紹介したところ、幸いにも骨粗鬆症にはなっておらず一安心しました。デュピクセント治療の開始とともに副腎皮質ステロイド剤(内服)の漸減を開始し、最終的に1ヶ月半した時点で完全に中止とすることができました。
今回2名のケースでは患者様と医師(前医)の間で様々なやりとりがあり、最終的に副腎皮質ステロイド剤の長期内服という結果になってしまったと考えられます。一番の原因は副腎皮質ステロイド剤の内服は強力、かつ即効性があるものの、中止するとすぐに重症ADが再燃してしまう点にあったのではないかと推測しています。副腎皮質ステロイド剤の内服と同等(もしくはそれ以上)の効果を有し、かつ長期的に継続可能な薬剤は現時点ではデュピクセントしかありませんので、このような患者様を治療するにあたり医師としても大変有り難く感じています。
最後は「デュピクセントでも治りにくい症状」についてです。1つは「顔面の赤み」、もう1つは「硬化性病変(苔癬化病変)」です。両者ともステロイド外用剤のランクを一時的に上げて対処し、改善した時点で徐々に弱めていくことで安定していきますので対応は可能なのですが、それ以外の症状がデュピクセント治療を行うことによって劇的に改善するため、これら症状においても「もっと改善してもいいはずなのに」という印象となってしまっています。
デュピクセント治療を行っている全国の医師からも、「顔面の赤みの改善が乏しい」という声が上がってきているようですので、その病因や対処方法について今後も注目していきたいと思っています。
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